悲鳴窟

怪談その他

黒木あるじ監修『怪談四十九夜 怖気』

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(2017年11月4日 初版第1刷発行)

目次(※我妻俊樹が吉澤有貴と表記される誤植あり)

2 まえがき(黒木あるじ)

小田イ輔
9 お礼参り
13 最後の望み
17 返事
23 最終電車にて
28 祟り木

神薫
32 幽霊の正体
36 ペル
41 ゲームの達人
46 お邪魔しました
47 四十九日

真白圭
53 あべこべ
58 ガラパゴス
65 銀行の駐車場
70 個人タクシー
75 青目玉

百目鬼野干
78 字禍
81 鏡
84 雨漏り
86 居抜き
88 繁盛鬼

伊計翼
91 もうしん
92 メール
93 なかよし日記
113 延々
115 魔除け

冨士玉女
117 蜘蛛の巣
120 目札
123 ドアポストから
126 旅のお守り
129 めのこ

宇津呂鹿太郎
132 縄張り
137 自然の摂理
142 幽霊が出る車
148 スプーン
152 花火

つくね乱蔵
157 離れてくれない
162 黒い川
166 見殺し
170 顔泥棒
175 育てよ我が子

黒木あるじ
181 兄弟
184 分割
189 服装
193 挨拶

我妻俊樹
197 位牌
202 屋根に上る
207 葬式帰り
210 ハルミの酒
215 目印

黒木あるじ監修による「怪談四十九夜」シリーズ第3巻。

こういうアンソロジーではよくもわるくも書き手の個性が強く出るため、変な怪談ばかり書いている人が目立つ印象だが、派手なの地味なのひっくるめて、良質なアンソロジーになっていると思う。

以下、それぞれの作家についての寸評を記す。

小田イ輔 ⇒ お話そのものの新奇さはないが、読み終えたあとからじっとりとした厭な感じがやってくる。手堅く上手い人だなという印象。

神薫 ⇒ 手を変え品を変え楽しませてくれるエンターテイナー。【オススメの怪談3選】からは泣く泣く外した「四十九日」 がビジュアルとして楽しすぎる。

真白圭 ⇒ 本書中、最高の珍味を味わえるのがこの人のパート。怪談というよりは奇談と言ったほうがしっくりくる話ばかり。

百目鬼野干 ⇒ 酒場にまつわる怪談。変な話ばかりの真白に続くと地味に感じるが、一人称の語りによる真ッ当な怪談で、お茶漬け的な安心感がある。

伊計翼 ⇒ 怪談社の書記の方。「なかよし日記」は上間月貴氏の語りを聞いたことがあったが、文章で読むと、いじめる側の悪意がより際立つ作になっている。正統派。

冨士玉女 ⇒ 他の書き手の個性が強すぎるためか、小さくまとまってしまった印象。テーマやモチーフで縛るなり、語りにもう一捻り加えたほうがおもしろかったかも。

宇津呂鹿太郎 ⇒ 最もわかりやすくビジュアルで攻めてくるタイプの怪談。ただし直球ど真ん中かというと、そういうわけでもない無気味さがいい。

つくね乱蔵 ⇒ 厭怪談のプロ。大好きな作家なので、また単著をとりあげる際にベタ褒めしたい。

黒木あるじ ⇒ さすがの安定感。とはいえ監修者として他の書き手に配慮したのだろうか、わりとふつうの、怪談らしい怪談を収録。

我妻俊樹 ⇒ 我妻俊樹もまた大好きな書き手。この人の怪談は「読むドラッグ」だと思っている。やっぱりそのうちベタ褒めするので、ここでは言葉を控えておきます。

オススメ怪談3選

①「ガラパゴス」(真白圭)
タイトルの意味がわかった瞬間にこそ、この話最大の怪=快がある。詳しく書くとネタバレになりそうで怖い。なにはともあれ読んでほしい、本アンソロジーのイチオシ怪談。

②「自然の摂理」(宇津呂鹿太郎)
人間社会に法や倫理があるように、狐狸妖怪の世界にも、我われには理解できないなんらかのルールが存在しているのだろう。奇妙に捩れた体系のごく一部を垣間見せてくれる、とてもいい怪談だと思う。憶測にすぎないが、本当はもうすこし続きがある話なのではなかろうか。

③「屋根に上る」(我妻俊樹)
実に我妻俊樹らしい気持ちのわるい怪談。真に怪異に見舞われているのは、果たして屋根瓦に魅せられた彼女なのか、あるいは弘之さんを含めた職場の人たちなのか、どこにもピントが合わないもどかしさが最高。