悲鳴窟

怪談その他

郷内心瞳『拝み屋備忘録 怪談双子宿』

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(2018年3月7日 初版第1刷発行)

目次

2 それは誰にも等しく訪れる
8 好きなんですか
11 女か犬か
14 朝の客
17 宅配便
20 幽霊役
22 ご一緒に
24 猿声
29 お地蔵さん
30 ちょうだい!
32 隕石
34 空白時間
38 エレベーター
42 耳吸い
47 突入前
48 あったりなかったり
52 完全無欠
56 にょっきり!
58 半纏
59 コーヒーカップ
60 どこから来たのか
68 指
71 手
72 足
74 ザリガニ神社
90 暗い穴
92 未遂
95 勇者の敗北
98 たったの一回
104 エケコ人形
114 左前
116 スキップ
118 裸眼
120 不意打ち
127 永久未遂
128 四コマ写真
130 姿見
131 さよなら
132 入れ替わり
134 画鋲
136 闇に湧く
139 インフェルノ
146 賞賛
151 それならば
152 帰り道
154 双子宿 光
159 双子宿 闇
166 不明の声
168 持っていかれる
172 首長竜
179 神隠
187 赤い車
194 断崖
203 警備員
215 烙印

本書の著者・郷内心瞳は宮城県に住む現役の拝み屋である。

基本的に筆者は心霊やオカルト全般には懐疑的なのだが「(拝み屋の仕事とは)昔ながらの民間療法のようなもの」(https://ddnavi.com/serial/257406/a/)という郷内のスタンスには好感が持てる、というか実際にそのような仕事なのだろう。

KADOKAWAから出版され、ドラマ化もされた「拝み屋怪談」シリーズは未読だったが、彼の語りは『怪談のシーハナ聞かせてよ。』『怪奇蒐集者』等の映像作品で何度か聞いたことがある。

お話そのものはなかなかおもしろいと思ったものの、そこで語られていたのは基本的に自身の体験談がメインであったから、それはあなたの塩梅だろう、という印象を受けてもいて、それなら文章のほうはどうだろうと、それなりの量の唾を眉に塗りたくり、本書を読みはじめ、おどろいた。ものすごくレベルが高いのである。

まえがきにあたる短文「それは誰にも等しく訪れる」からしてよくできており、怪異との遭遇は、いわゆる霊感の多寡には一切左右されないという本職ならではの断言が、硬質な文章とあわせて、こちらの居ずまいを正させる。いきなりしてやられた。

肝心の本編はというと、数行で完結する超ショート怪談あり、ゲテモノ好きをにやりとさせるアホ怪談あり、小説的趣向を堪能できる連作怪談あり、さまざまな趣向で楽しませてくれる熟練の手業に、ついつい寝食を忘れて読み耽ってしまった。

尋常の幽霊話がメインかと勝手に予想していたが、意外にも奇談寄りの話が多いのもうれしい誤算だった。この人の著作には今後要注目。

オススメ怪談3選

①「どこから来たのか」
幼少期の記憶を扱った話は大好物。体験者の推測もあわせて、辛うじて怪談として成立している話だが、個人的には怪異そのものよりも「かりんとう」という小道具が醸し出す、得も言われぬリアルさが最大のポイント。

②「インフェルノ
本書中、最も派手な怪談。一般的な実話怪談の文法としてはもうすこしぼかすか曖昧にするのが妥当なところで、下手な書き手がこれをやったら目も当てられないことになるだろう。筆力のなせる力業。やっぱり上手い。

③「赤い車」「断崖」「警備員」「烙印」
とある心霊キ×ガイの半生を描いた連作。これまた実話怪談のセオリーからは逸脱した話といえる。あまりにきれいな起承転結になっており、たとえば『新耳袋』のふたりが読んだら眉をひそめそうだが、こういう教訓的な怪談をもっとNHK教育テレビとかでやったらいいと思うんですよ。