悲鳴窟

怪談その他

平山夢明監修『怪談五色 死相』

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(2017年12月6日 初版第1刷発行)

目次

小田イ輔
11 順番待ち?
17 造成地の公園
22 小料理屋にて
30 血生臭い何か
34 T君のこと
40 加護
47 後遺症

我妻俊樹
57 花の匂い
60 広場の集会
64 先輩のボトル
69 泥棒池
74 六年間
77 スカジャンの男
84 テレビの話
90 マネキン
96 一宿
100 骨壺

福澤徹三
105 黒い染み
110 木箱の用途
114 女系家族
118 赤い服の女
125 小紋の穴
129 布団のなかの異物

岩井志麻子
140 韓国の虚言の花園
149 タイの嫌な動画
160 ベトナムのホテルの黒い影
167 台湾の死者のタンス
174 香港の揺れる女達

平山夢明
185 蠅
194 ねこばば
207 けんぱ
213 居候飯

ベテラン執筆陣を集めたシリーズ「怪談五色」第五弾。

帯には「超最凶執筆陣のハルマゲドン実話怪談集!」とあるが、「ハルマゲドン実話怪談集」とはいったいどういう意味なのだろう。竹書房の中の人を小一時間問いただしたい惹句ではあるが、とはいえさすがに熟達の書き手がそろっているだけあり、どの話も安心して読める。

平山夢明福澤徹三岩井志麻子のレジェンド三名は、相変わらず、平山夢明はヤバそうな筋から怪談を仕入れているし、福澤徹三は読むだけで不幸になりそうだし、岩井志麻子ベトナム人の愛人と楽しそうにやっているしで、生き生きしている。あやかりたい。

個人的には我妻俊樹と小田イ輔の怪談にゾクゾクさせられた。特に我妻俊樹は、この人の書いたものならもうなんでもいいから読みたいという偏愛の域に達している。

せっかくなので今回は執筆陣全員からそれぞれ一作ずつオススメ怪談を紹介する。

オススメ怪談5選

①「後遺症」(小田イ輔)
よくある呪いの物品物かと読み進めていくと、途中からものすごい変化球になる話。ネタバレになるので詳しくは伏せるが、体験者の存在自体がひとつの怪異になってしまっている怪談。

②「マネキン」(我妻俊樹)
先述したように我妻俊樹の怪談は全部いいのでとても迷ったが、ここでは最もわかりやすい(?)かたちで怪異が表出している話を選んだ。もっとも二段構えで出来する怪異のあいだにどういうつながりがあるのかと考えはじめると、結局、ぜんぜん意味がわからないのだけれど。

③「赤い服の女」(福澤徹三
本アンソロジー中、最もストレートな怪談がそろっているのが福澤のパート。舞台となる借家について、ピエロの絵の噂、赤い服の女と絵画との関係、青痣の男の謎など、複数の情報が入り乱れていくさまがなんとも無気味。家主の老人のぶっきらぼうな台詞にも痺れる。

④「タイの嫌な動画」(岩井志麻子
韓国、タイ、ベトナム、台湾、香港と、得意のアジア怪談を繰り出す本書のダークホース。岩井はデビュー作『ぼってぇ、きょうてえ』から一貫して男女の情念をテーマにしたしんどい話を書いており、今回も御多分に漏れず、タラの白子ばかりを無限に食わされるような怪談を、ほんとうにどうもありがとうございます。もうおなか一杯です。

⑤「けんぱ」(平山夢明
息をするように頭のおかしい怪談を書く男・平山夢明にしては地味目だが、これはしんみりとした実にいい話である。わたしたちはみな、ソースケにとっての「隕石のたくさんある場所」を探しているのだ。泣ける怪談。