悲鳴窟

怪談その他

【実話怪談】猫人間

現在、イラストレーターとして活躍している百花さんが大学生の頃というから、五、六年前のことだろう。

顔を合わせば世間話くらいはする仲の友人とたまたま学食で一緒になった際、話の流れで、
「幽霊って見たことある?」
と訊いたところ、
「幽霊ってわけじゃないけど、猫人間なら昔からよく見るよ」
そう返ってきたそうだ。

百花さんはそれで、
「猫人間ってなに?!」
と思わず大きい声をあげてしまった。

友人は百花さんの反応を愉しむように「うふふ」とミステリアスな笑みを浮かべ、
「猫人間っていうのはね……」

そのタイミングで、百花さんのケータイに実家の母から着信が入ったのだという。

「ちょっとごめんね」
百花さんが友人にそう断って電話に出ると、
「うちに泥棒が入ったの! あんたの部屋が荒らされてる!」
「ええ! なにそれ?!」
「いまケーサツの人が来てるから、とにかく一度帰ってきて!」
「わたし今日バイトなのに!」

そんなやりとりを交わしているうちに、友人は学食からスーッと出て行ってしまった。

(泥棒とかマジ最悪……)
(ていうか猫人間、気になりすぎるんだけど……)

感情の置き処を完全に失した百花さんが実家に戻ると警察はもう帰ったあとで、被害はといえば、彼女の部屋にあったアルバムが一冊盗まれただけだった。

結局その日は、泥棒に入られたことで狼狽しまくる母を、父と一緒になだめたりすかしたりするだけで終わったのだが、百花さんがてんやわんやしているちょうどその頃、猫人間の話をしかけていた友人は、自宅で首を吊って亡くなっていたのである。

遺書もなにも残されてはおらず、自殺の動機はわからなかったという。