悲鳴窟

怪談その他

【実話怪談】カキタホキタカ 

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会社員の伊織さんが十年ほど前にした肝試しの顛末である。
名古屋市東部に位置するH公園での出来事だという。
既存の樹林地を利用しているその公園は、いまでこそバーベキューやソロキャンプに興じる人も多いが、昔はよく暴走族の溜まり場になっていたそうだ。
また園内の丘には広大な墓地があることから、心霊スポットとしても知られていたらしい。

「たしか秋頃だったかな。彼氏と栄でごはん食べてたら友だちが合流して、肝試しでもしようって流れになったんです。若気の至りってやつですね」
酒を飲まない友人の車で公園に乗りつけた伊織さんたちは、園内の墓所を目指したという。
「具体的になにをするとかは決めてなくて。とりあえずお墓にでも行ってみたら雰囲気あるかな、くらいの軽い気持ちだったんですけど」

墓地に着いた伊織さんたちは、彼氏のペンライトを頼りに十分ほど散策してみたけれど、当然ながら、墓以外のものはなにもない。
場の雰囲気にも飽きてきた頃、友人が、
「なんだあ、これ?」
と素頓狂な声をあげた。
それは周囲のよりもすこしみすぼらしく見える墓だったが、棹石の正面に、妙にはっきりとした文字で、
《カキタホキタカ》
と刻まれていた。
「名前かな?」
「ホキタカなんて人いる?」
「そもそもなんでカタカナ?」
「外国人?」
口々に言い合ううちに、伊織さんにはなんだか周囲の気温が下がってくるように思われた。ほかのふたりもそう感じていたらしく、結局、三人はそそくさと墓所を後にした。

「それで車に乗り込んで、缶コーヒー飲みながら、なんか気持ちわるかったよね、なんて話してたら……」
不意に伊織さんの電話が鳴った。
液晶には彼氏の電話番号が表示されている。
「えッ?」と思ってとなりに視線をやると、彼氏もおどろいた顔でじぶんのケータイを見つめている。友人も同様だった。
伊織さんには彼氏から、彼氏には友人から、友人には伊織さんからの電話が同時にかかってきていたのである。
しばらく呆気にとられていたところ、着信は止んだ。
その直後、同じ番号から今度は一斉にショートメールが届いたのだという。
おそるおそるメールを確認した三人は、もうまるで生きた心地がせず、声も出なかった。
なぜなら、どのメールにも見知らぬ男性の証明写真が添付され、本文にはただ一言、
《カキタホキタカ》
そう書かれていたからだ。