奈美さんが某マッチングアプリで知り合った男と三回目の食事に行った際、不意に店の電気が消えたと思ったら、奥のほうから結構な数の蝋燭が立てられたホールケーキを持ったギャルソンが近づいてきたので厭な予感がした。
案の定、奈美さんの予感は的中した。
品のよい笑みを浮かべながらこちらに歩み寄ってきたギャルソンによってテーブルに置かれたホールケーキには、
《ご結婚おめでとうございます》
と書かれたプレートが載っており、奈美さんは気が遠くなった。
切り分けられたケーキをえびす顔で口に運びながら、先ほどまでよりも微妙にぞんざいな態度になった男に恐怖をおぼえた奈美さんだったが、その場は引き攣った笑顔でなんとか凌いだのだという。
無論、別れた直後にブロックした。
……そのはずだったのだが、数日後、奈美さんのスマホに男からの着信があった。
不意を突かれた格好だったため、反射的に電話をとった彼女の背後から、
「結婚してます……彼、結婚してますから……」
という陰気な女の声が聞こえてきたので、牛のような雄叫びをあげてしまった。
奈美さんは部屋の壁を背にして坐っていたのである。
着信履歴は残っていなかったという。