悲鳴窟

怪談その他

【読書感想】丸太町小川『実話拾遺 うつせみ怪談』(竹書房怪談文庫)

怪談本の感想文を書くのはずいぶんひさしぶりだが、年明け早々、素晴らしいものを読んだので。

竹書房の怪談マンスリーコンテストが輩出した著者による初単著。
帯には「ヴァナキュラー怪談」との惹句が踊るが、ネット怪談によくある「因習めいた村の陰惨な歴史……」といった見世物小屋性とは一味も二味もちがった趣き。

土着の風習や家族ルールにまつわる話、余人には理解できないが、物語の背後になんらかのいわくを感じさせる話、これはなに? と呆気にとられてしまう話、エモ怖、格調高いルポ&歴史怪談……など、内容はバラエティに富んでいるものの、対象となる怪異乃至体験者と筆者の距離感(内部に向ける外部のまなざし)が精確にコントロールされているから、一冊の書物としてのまとまりがとてもいい。

文体は簡潔にして明瞭。描かれている怪異の強度としてはそれほど高くはなく、偶然や思い込み、記憶の齟齬に近いものも多い。にもかかわらず本書には「なにかよくないものに触れた」という強烈な忌避の感覚をおぼえてしまう話もいくつかある。そうしたネタを鳴物入りでジャジャーン! と出してくるのではなく、あくまで淡々とした上品な筆致で読ませる。
怪異の核となる部分をあえて提示せず、行間で読ませるテクニックも冴えわたっており、上手すぎて舌打ちしたくなる話もチラホラ。
いつまでも読んでいたいと思わせる、実にすてきな怪談本だった。

お気に入りの話はたくさんあるが、
「タイムカプセル」
「M先生の笑顔」
「すぐ右側の何かと」
「元彼のY君」
「エンドレス準備運動」
「きっかけ」
「ふえていく」
「手招き地蔵」
「笑い声には気をつけろ」
「長く低く、それでいてよく通る声」
「聖域からの生還」
「竹とんぼ」
などが特に印象に残った。というか収録作全部よかった。

わたしたちはふとした瞬間に、この世の理屈ではわりきれないなにかと縁をむすんでしまうことがある。それをきっかけに人生はすこしずつ混線してゆき、そうして気づいたときには、わたしたちの人生は、自分のものだかだれかのものだかよくわからないものになっているのではないか。
漠然とそんなことを考えながら日々怪談を集めては書き、また読んでいるのだけれど、その意味でものすごく心強い作家に巡り会えたなという思い。次巻も楽しみにしています。