悲鳴窟

怪談その他

【実話怪談】恥

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春太さんは物心つかない時分に不幸な事故でお母さんを亡くしたが、それでもお母さんのゆうれいがちょくちょくやって来ていたので、別段、かなしいとかさびしいという感情を抱いたことはなかったという。
お母さんのゆうれいがあらわれるのは決まって入眠の直前で、布団に入ってうとうとしていると、不意に「あ、来そうだな」という感覚をおぼえる。
次の瞬間、寝室のドアがすーッと開いてお母さんが入ってくるのである。
「ただその母ちゃんの顔っていうのが、いつも同じ表情で……」
笑みを浮かべてはいる。それはたしかだ。
が、その笑顔がどこか引き攣っているように見える。端的に、作り物臭いのだ。
「こちらの顔色をうかがうような感じというか、無理に上げた口角がピクピク動いてるのがわかるくらいなんですね」
数年前に成人をむかえた春太さんは、お母さんの死の真相を聞かされた。
不倫相手と駆け落ちした挙句、潜伏先のホテルで心中したのである。
「ああ、あの笑顔ってそういうことかとはじめて合点がいきましたよ。知ったところで、別に責めるような気も起きません。過ぎたことなんで」
いまでも、お母さんのゆうれいはたまに出る。