先日、桜上水の古民家で行われた松尾裕樹&丸山港都の演劇作品『現像 世田谷区桜上水09.2024』を観てきた。 www.genzou.art 脚本、演出を手掛ける松尾さん、俳優の丸山さんとは前作『バーン・ザ・ハウス』のアフタートークに呼んでいただいてからのご縁で、…
当方は東京都墨田区旧寺島村の生まれであって、その三神社であるところの白髭神社、高木神社、長浦神社のいずれの例大祭にも幼少期から慣れ親しんでいる。父はそのうち白髭神社の氏子総代を務めたことがあり、今も実家では神輿巡幸の「セッタイ」をする。要…
友人の植木屋と居酒屋に入った。ざっかけない接客が心地良く、刺身が美味い。ちょっとおもしろい日本酒の品揃えも気に入っていて、月に一、二回は顔を出す。植木屋は最近、仕事関係でちょっと不思議な体験をしたという。酒を飲ませて、それを聞き出すつもり…
和馬さんが以前よく利用していたスーパーの駐輪場の話である。 その駐輪場は、店の裏手のちょっとした死角に設けられていた。だからなのか、時折、近所の高校生がたむろしていたり、ホームレス風の男がシケモクを吸っていたりということがあったらしい。もち…
短篇集。表題作「遠い空」は、先日めでたく文庫化された春日武彦『無意味なものと不気味なもの』(中公文庫、2024年)で取り上げられている。わたしは春日氏のこのエッセーを学生時代に愛読したいへんな影響を受けたのだが、言及されている小説のうち、どう…
ゴルフコースの人魚たち (扶桑社ミステリー ハ 8-5) 作者:パトリシア ハイスミス 扶桑社 Amazon 最近いろいろと健全すぎる生き方をしている気がした。こういうときはハイスミスを読むにかぎると、本棚から未読だった本短篇集(森田義信訳、扶桑社ミステリー…
柳楽さんが数年前まで住んでいたアパートでは、明け方、よく外で鶏の鳴く声が聞こえたそうだ。そこは駅から徒歩二十分ほどの場所にある木造物件で、周囲には畑も多かった。だから鶏を飼ってる人くらいいるだろう、と柳楽さんはそう考えていて、鳴き声がする…
「不条理(系)怪談」という言葉を怪談界隈の人たちはわりと普通に使っているように思える。じぶんにしてもそれは同様で、「不条理(系)怪談」を得意とする作家といえば、例えば我妻俊樹、朱雀門出両氏の名前がすぐに思い浮かぶ(現にこの二人が「不条理(…
妻が録画したNHK大河ドラマを観ている。今年の大河は松潤の家康と聞いていたが、タイトルを一目見ておどろいた。『こうしろ平八郎』というのだ。若かりし日の大塩平八郎を池松壮亮が演じている。大塩平八郎という人は教科書に載っていたあの顔の感じから大変…
夕方、保育園に娘を迎えにいったら、園脇の側溝に大きな鰻が横たわっていた。野田という小柄な先生が刺股みたいなものでそれを上からおさえつけているところに國分という背の高い先生が駆けてきて、手に持った千枚通しで鰻の脳天を貫いた。鰻は笛を吹くよう…
岩波文庫から出た中上健次の短篇集をだいぶ読んだのだけれど、いまの自分のモチベーション的に他人の性交の話にあまり興味が持てない。というか他人の性交の話にわりと興味がある状態がむしろ異常ではないかという気がしてもいる。なんでおれはそんな他人の…
昼ご飯を作ろうとしたらツナ缶とパスタしかなかったので当然ツナのパスタを作ることになる。選択肢が少ないのはいい。なぜなら思い悩むことがないから、とうそぶきながらニンニクを刻み、オリーブオイルを探したのだがどういうわけか一向に見つからない。か…
つい先日、こんな本が出た。 現代奇譚集 エニグマをひらいて 作者:鈴木捧 Amazon 処女作『実話怪談 花筐』、第二作『実話怪談 蜃気楼』で独自の淡く、けれど奇妙に忘れがたい怪談世界を提示した鈴木捧氏の第三作である。私は前掲書を再読三読し飽きなかった…
二歳になる柚子ちゃんは今日も目についた扉をノックしてはこう訊ねる。 「トントントン、だれのおうち?」 保育園で教わった、いまお気に入りの遊びなのだ、と母の亜希さんは語る。古くから農業を営む亜希さんの生家に里帰りした時のこと。 玄関の引き戸の前…
煙鳥怪奇録 足を喰らう女 (竹書房怪談文庫 HO 607) 作者:煙鳥,高田 公太,吉田 悠軌 竹書房 Amazon "The horror! The horror!" ──Joseph Conrad "Heart of Darkness" 怪談蒐集家・煙鳥が集めたネタを、吉田悠軌、高田公太の実力派二人が「書き直す」シリーズ…
【課題】ハーマン・メルヴィル/牧野有通訳『ピェール 黙示録よりも深く』(幻戯書房)【日時】2023年4月22日(土)12:30〜17:00【場所】喫茶室ルノアール新宿役所横店 【参加】7名 ピェール: 黙示録よりも深く (上) (ルリユール叢書) 作者:ハーマン・メルヴ…
家怪 作者:川奈まり子 晶文社 Amazon 川奈まり子氏は現今、実話怪談をものする作家の中で、トップクラスのネタ量を有する方と言われている。が、一度でもその著作に触れた者ならわかるだろう。川奈氏ほど、質か量かという二分法が当て嵌まらないタイプの作家…
「インドカレー屋って初見で入っても、まあハズレないじゃないですか」 亜紀さんはその日、駅前で南アジア系と思しき外国人から新規オープンしたカレー屋の五〇円引きクーポン券をもらった。ちょうどランチタイムだったので、それならと彼女は駅からほど近い…
中津さんが殺したゴキブリの腹から白い小人が出てきて「オ祓イシテモ意味ナイヨ」と言った。小人はすぐにカーペットの下に潜ってしまい見えなくなったが、それからというもの、夜になると部屋のどこかから「ヒヒヒ……」というか細い笑い声が聞こえるそうだ。…
怪談本の感想文を書くのはずいぶんひさしぶりだが、年明け早々、素晴らしいものを読んだので。 実話拾遺 うつせみ怪談 (竹書房怪談文庫) 作者:丸太町小川 竹書房 Amazon 竹書房の怪談マンスリーコンテストが輩出した著者による初単著。帯には「ヴァナキュラ…
大学院生の吉永さんが友人であるS宅を訪ねると、お揃いの白い襟なしシャツを着た四、五人の男女がアパートの前にたむろしていた。円陣を組んで顔を突き合わせ、何事かをひそひそと相談している様子である。わきを通りすぎる際にチラッと見れば、彼らの着て…
今年で不惑をむかえる芳樹さんは、郵便ポストの投函口から猫の頭部らしきものがにょっきりと「生えて」いるのを、これまでの人生で計五回見たことがある。アッ! と思った時にはもう消えている。錯視というには、あまりにはっきり見えるのだとか。 そんな話…
京香さんの趣味は登山である。以前の会社で仲の良かった同僚の影響だが、いまでは関東、東北地方の山はひととおり踏破したという。再就職先でも山仲間が見つかれば、と思っていたところ、直属の上司にあたる魚尾という男が、「山好きなんだって? 実はおれも…
気狂いとはおのれのことしか考えぬ者の謂である。 (エリアス・カネッティ「眩暈」池内紀訳) ああ、バートルビー! ああ、人間!(ハーマン・メルヴィル「書写人バートルビー」柴田元幸訳) 高田公太さんのnote連載小説「あるファンからのメール──愚狂人レ…
ひさびさの外食でオムライスを食べた岩村くんが食後の珈琲を飲みながら某SNSを開くと、つい数分前に彼をフォローしている人がいた。なんだか政治的に混み入った話をぽつぽつと呟いている感じのアカウントで、いったいどうして岩村くんをフォローしたのか…
山形県出身の友人に聞いた話。彼の曽祖父の親次さんは納豆餅が大好物だった。丸餅に納豆とねぎ、大根おろしなどを乗せ醤油をかけたもので、山形では正月のポピュラーな餅料理だ。そして年季の入った餅好きは、この納豆餅を食べるというより、一口でつるッと…
台湾人留学生の永波さんがアルバイト先の個人経営の居酒屋で立ったままうとうとしていると、入口の自動扉が開く気配がした。「いらっしゃいませー」咄嗟にそう言いながら腕時計を見れば、深夜三時をまわったところだった。二十四時間営業の店とはいえ、こん…
ヨシオさんが小学四、五年生の頃、近所の駄菓子屋の前で友人のヌマタくんと駄弁っていると、知らないおばさんに声をかけられた。ヌマタくんによく似た、垂れ目のおばさんだった。おおかた親戚だろうと思った。けれどヌマタくんはおばさんとあまり言葉を交わ…
奈美さんが某マッチングアプリで知り合った男と三回目の食事に行った際、不意に店の電気が消えたと思ったら、奥のほうから結構な数の蝋燭が立てられたホールケーキを持ったギャルソンが近づいてきたので厭な予感がした。 案の定、奈美さんの予感は的中した。…
笠井さんははじめての海外旅行で置き引き被害にあった。レストランを出て友人と談笑しつつ百メートルほど歩いたところで、ポケットにスマホがないことに気づいたのである。さてはテーブルの上に置きッぱなしかと慌てて駆け戻るも、時すでにおそかった。最前…