悲鳴窟

怪談その他

2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

【実話怪談】出れねえ

彰人さんのおじいさんはもともと変わり者だったが、ストッパーの役割を担っていた妻を癌で亡くして以来、その奇行に拍車がかかった。具体的には、暇と金にまかせて家の増改築を繰り返した。その結果、彰人さんの実家は、どこにも通じていない扉、一階から直…

【実話怪談】知らぬが仏

タクシーにまつわる怪談は数多いけれど、いざ運転手さんに「なにか怖い話あります?」と訊くと、多くの場合、厄介な客を乗せたとか、そんなような話になる。そもそもわたしがタクシーに乗るのは、よほどの泥酔時乃至疲労困憊時にかぎるので、そんな状態でわ…

【実話怪談】恥

春太さんは物心つかない時分に不幸な事故でお母さんを亡くしたが、それでもお母さんのゆうれいがちょくちょくやって来ていたので、別段、かなしいとかさびしいという感情を抱いたことはなかったという。お母さんのゆうれいがあらわれるのは決まって入眠の直…

【実話怪談】お地蔵さまの写真

十年前、恋人からメールで唐突に別れを告げられた知念さんがあわてて彼女のマンションに駆けつけると、部屋はすでにもぬけの殻だった。 しかし合鍵で入った部屋の壁という壁には、おそらくは同一のお地蔵さまをさまざまなアングルで撮ったとおぼしき写真が無…

【実話怪談】三角公園

おかしな公園がある。道と道がV字に交差する地点に作られた、ごく小さな公園で、その形状から地元では「三角公園」と呼ばれている。正式な名前もあるが、無論、ここでは伏す。備えられた遊具は、大人の背丈ほどの滑り台とブランコ、そして二人掛けのベンチが…

【実話怪談】トルコの飴

「贋物二題」のうち「裸踊り」の話を提供してくださった美和さんがトルコ人の友人の家に遊びに行った際、その彼が突如、「シャブでもやるかあ」と言い出したのでギョッとした。 鼻歌まじりに友人が取り出したのは、クッキーかなにかの缶で、中には薄茶に透き…

【実話怪談】贋物二題

ドッペルゲンガー、古くは離魂病、影のわずらいとも言う。要するにもうひとりのじぶんがあらわれる現象であるが、このたぐいの話は古今東西枚挙に暇がない。ここではそのうち、ごく最近聞いて印象に残った話をふたつ紹介する。 裸踊り 美和さんが大学生の頃…

【実話怪談】カール

自称中堅どころのライターだという松縄さんが最近越した家の近所にはわりと古くからやっているおもむきの煎餅屋があって、そこのうちではカールという名のビーグル犬を飼っている。松縄さんは仕事柄、どうしても家に籠りがちなので、早朝に一度、夕方に一度…

【実話怪談】なめとも

古い友人と言えないこともない秋谷が真夜中に酩酊し道端に倒れたところをトラックに轢かれて死んだ日、東海林さんは奇妙な体験をしたという。 その日、東海林さんはどうにも寝付けず、居間でウィスキーのグラスを重ねていた。時計を見ると、午前二時をまわっ…

【実話怪談】ポッポの窓

奈緒さんの家では、一人息子の仁くんが意味のある言葉を発するようになった。「まだまだ単語だけですけどね。『パパ』『ママ』『ワンワン』とか、そういうの」最近では「ポッポ」を覚えた。公園で鳩を見かけるたびに「ポッポ、ポッポ」とうれしそうに繰り返…

【実話怪談】片腕

佑美さんは学生の頃、ホテルのラウンジで給仕のアルバイトをしていたが、そこで知り合った裕福そうなおじさんに何度か食事に誘われたことがあるそうだ。飲食関係の会社で役員をしているとかいう品のいい男性だったので、食事くらい別にいいかとも思ったが、…

【実話怪談】箴言

仏文科の学生だった隆之介さんが卒論のことで指導教授のもとを訪ねると、その先生がちょうど研究室から出てくるところで、「すぐ戻りますから」と言うがはやいか、小走りでいなくなってしまった。研究室のドアは全開だったから、隆之介さんは、ここで待てと…

【実話怪談】天火

美容師のセイイチさんが中学生の頃というから、いまから二十年ほど前の話である。ちょうどお盆の時期で、両親は留守にしていたという。 「墓参りにでも行ってたんじゃないかな」 そうセイイチさんは述懐したが、すぐに打ち消して、 「いや、でもそんなはずな…

【実話怪談】醤油男

牛窪さんが経営する中華料理店ではある頃から醤油の減りが尋常でなく早くなったのだという。奥さんとふたりで切り盛りする小さい店であるから、従業員がくすねているわけではない。考えられるのは外部から泥棒が入ったということだが、そのほかに盗まれたも…

【実話怪談】雨合羽

ある晩、予備校生で一人暮らしをしている光輝さんが自宅マンションのエントランスでエレベーターを待っていると、背後でドアを開閉する音がした。肩越しにちらりと見たら、そこには黄色い雨合羽を着た五歳くらいの男の子がいたそうだ。こんな時間にひとりで…

【実話怪談】M山町のクラブ

これも「猫人間」「またのお越しを」の百花さんから聞いた話。 彼女が十九歳の頃、渋谷のM山町にあるクラブによく顔を出していた。 そのクラブはちょっと変わった店で、お客の平均年齢は三十代後半から五十代、店長兼DJをしていたノボルさんというおじさんの…

【実話怪談】カキタホキタカ 

会社員の伊織さんが十年ほど前にした肝試しの顛末である。名古屋市東部に位置するH公園での出来事だという。既存の樹林地を利用しているその公園は、いまでこそバーベキューやソロキャンプに興じる人も多いが、昔はよく暴走族の溜まり場になっていたそうだ。…

【実話怪談】カラスのお祭り

ある夏の晩、名古屋に遊びに来ていた正丸さんは、スマホを片手に栄の繁華街をうろついていた。 彼は大の酒好きで、今回の旅行も栄で名古屋グルメと地酒を楽しむのが目的だったが、どれだけ探してもお目当ての店が見つからない。スマホの地図アプリと睨めっこ…

【実話怪談】↓↑

名鉄瀬戸線の某駅にあるふたつの坂は、愛知県でも名の知れた心霊スポットである。 こう書いた時点でわかる人にはわかるのだけれど、ここではA坂、B坂と呼ぶ。 ふたつの坂にまつわるお化け話は古くからあったらしく、尾張藩士で儒学者の細野要斎が、幕末から…