悲鳴窟

怪談その他

【実話怪談】三角公園

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おかしな公園がある。
道と道がV字に交差する地点に作られた、ごく小さな公園で、その形状から地元では「三角公園」と呼ばれている。正式な名前もあるが、無論、ここでは伏す。
備えられた遊具は、大人の背丈ほどの滑り台とブランコ、そして二人掛けのベンチが二脚。それだけだ。
住宅街の真ん中にあるにもかかわらず、子どもたちが遊ぶすがたを見かけることはあまりない。
見かけるといえば、と伊万里さんは言う。
近所の人たちがおかしなものを見ている。
夜半、公園の前をとおりがかると、ベンチに顔のない女が腰掛けている。あるいはまた、ブランコの数がひとつ増えている。滑り台の上に肉色をした案山子のようなものが佇立している。
もうずいぶん以前のことになるが、その公園で近所のおばあさんが亡くなった、とは六車さんの言だ。凍死だった、という。
けれどもそんな話は他のだれからも聞くことができなかったし、記録も残っていないようだ。
してみると六車さんの勘違いだが。そう思っていた矢先、六車さんの友人だという埴谷さんからこんな話を聞いた。
曰く、六車さんの叔母にあたる人が痴呆からくる深夜徘徊を繰り返した挙句、数年前、近所の公園で凍死したらしい。東北地方の某県での話である。その公園とはまったくの無関係だ。
その間違いを六車さんに糺すことはもちろんできなかったが、埴谷さんもまた三角公園でおかしなものを見た人のひとりだ。
ある晩、埴谷さんが公園の前をとおると、ベンチの上に犬の死体が横たえられていたという。埴谷さんには犬種まではわからなかったが、「毛がなくてつるッとした長細い感じ」の犬だったそうだ。野良犬にはいそうにないタイプだったし、そもそもこのあたりで野良犬を見かけることなどない。
おどろきはしたものの、どうしてまたこんなところに、という気持ちのほうが強かった。そもそも、ほんとうに死んでいるのか。あるいは、単によくできたぬいぐるみにすぎないのではないか。
おそるおそる近づいていった埴谷さんは、ベンチの数メートル手前で足を止めた。
公園の外からでは気づかなかったが、ベンチの周囲になにかいる。
それは喪服のような黒い衣服をまとった人間だった。身長は十センチかそこらだろう。小人である。それも一体ではない。すくなくともニ十体以上はいるようだった。
小人たちはベンチに置かれた犬の死体に向けて、みな一様に首を垂れていた。黙祷しているらしかった。
──これは見てはいけないものだ。
そう察した埴谷さんはあわててその場を立ち去ったが、次の日、明るい時間に公園を訪れてみると、犬の死体も、もちろん喪服を着た小人たちも、すでに影もかたちもなかったそうだ。

後日、埴谷さんのSNSを覗いたところ、数日前の投稿に、ご自身の愛犬を撮った写真が掲載されていた。埴谷さん同様、わたしにも犬種まではわからなかったが、それは「毛がなくてつるッとした長細い感じ」の犬だった。