悲鳴窟

怪談その他

2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

【実話怪談】靴

琴美さんが当時交際していた彼氏のアパートにはじめて行った時のことだ。 アパートの階段を上がっていちばん手前の部屋の前を通りすぎる際、前を歩いていた彼氏が「うわッ!」と声をあげた。 見ればその部屋の表札部分にアニメのキャラクターが描かれた子供…

【実話怪談】帽子

哲雄さんがまだ二十代半ばで、よくない知り合いから紹介されたよくない仕事をしていた頃の話である。 ある朝の五時頃、哲雄さんは前夜にひどい飲み方をしたせいで自宅に帰るのも億劫だった。宿酔いの頭を抱えながら寝床を貸してくれそうな女の家に向かってい…

【実話怪談】またのお越しを

「猫人間」の話を聞かせてくれた百花さんの体験談である。 三年前、まだ実家暮らしだった頃にいろいろあって両親と揉め、すぐにでも入居可能な部屋を探していた彼女は、東京都中野区は新井薬師近くのアパートに引っ越しを決めた。 そこは二階建ての小さな建…

【実話怪談】夜景を見る

柚月さんが高級そうなスーツを着た中年の男と××山の展望台で夜景を見ていた。 隆二さんが友人からそう聞かされたのは柚月さんとの交際三周年を翌月に控えたある日のことだった。××山の展望台といえばこのあたりでは有名なデートスポットで、そんなところに愛…

【実話怪談】喫煙所

マサキさんは大の愛煙家である。 その日もはじめて訪れた街で仕事を終え、どこかで一服、と思ったのだが、駅前に喫煙所は見当たらない。 「うろうろしてるうちに便所にも行きたくなってくるしさ。しかたねえから、近くにあったビルん中に入ったのよ」 地下に…

【実話怪談】ラーメン屋

斎藤くんが新宿区の某所でたまたま見かけたラーメン屋に入って炒飯を注文した直後、店に置かれた漫画の単行本を開くとそこに、 チャーハンゲロまず と書かれていて最低の気分になったが、更にその書き込みの下に別の筆跡で、 ゆうれいも出る とあり、なんだ…

【実話怪談】変容②

実家のベランダから、叔母が亡くなった病院が見えるんです。 だからうちの母は、毎朝、洗濯物を干しに出るのがツラいと言ってます。 叔母がいるんだそうです。 実家と病院のちょうど真ん中あたりにふわふわ浮かんで、さびしそうな顔でこちらを見てるんだとか…

【実話怪談】変容①

ある晩、武市さんが異様な物音に目覚めると、一週間前に亡くなったばかりのおばあさんが寝室の壁や天井を四つん這いで駆けまわっているのを目撃した。 「死んでる人がそこにいる恐怖というよりはですね、はっきり言って、頭のおかしい人に出くわしたときの恐…

【実話怪談】猫人間

現在、イラストレーターとして活躍している百花さんが大学生の頃というから、五、六年前のことだろう。 顔を合わせば世間話くらいはする仲の友人とたまたま学食で一緒になった際、話の流れで、「幽霊って見たことある?」と訊いたところ、「幽霊ってわけじゃ…

【実話怪談】冷蔵庫の下

ある朝、日本語教師の美恵子さんが仕事に出る際、マンションの一階ロビーにある郵便受けを開けると、二年ほど前に思い出したくもない別れ方をした元彼からの葉書が届いていた。そこには元彼のものではない筆跡で一言、 「冷蔵庫の下」 と書いてあった。まっ…

【実話怪談】めちゃくちゃ笑える動画を観せてもらった話

出版社の営業代行をしている五十嵐さんから聞いた話。 「出先で不愉快な目にあってね。もっともそんなことはしょっちゅうなんだけど、その日はどうもくさくさしてしちゃって。それで最寄りの飲み屋でひとりしめやかに飲むことにしたわけ」 カウンター席に通…

【実話怪談】何故猫

ショップ店員の優里亜さんが小学六年生の頃、日帰りのバス旅行で日光へ行き、華厳の滝を写真に撮ろうとしたところ、担任の先生がニタニタと笑いながら近づいてきて、「知ってるか? ここは自殺の名所なんだぞ。こんなところで写真を撮ると、自殺者の霊が写る…

【実話怪談】墓地横のアパート

三上くんの昔の友人に多田という趣味のわるい男がいて、そいつは道端の地蔵を蹴倒したりお稲荷さんに小便をひっかけたり、幽霊が出るとうわさのトンネルにわざわざ出かけて大便を垂れてきたりするのだそうで、その度を越した狂態に多くの友人はドン引きして…

【実話怪談】呪殺先生

とにかくおかしな教師だったのだそうだ。 「いまでも思い出すと気分が落ち込みますね。同窓会なんかでも、その話題はタブーになってますよ」 わたしと同年輩の鷲尾さんが中学三年生の時の担任は、生徒からの評判がおよそ最悪であった。当時四十そこそこだっ…

【実話怪談】団子

ある日曜の昼頃、当時大学生だった岡本さんがアパートでごろごろしていると、玄関の扉を遠慮がちにノックする音が聞こえたのだという。 ドアを開けるとそこには知らない女が立っていた。女は「近くまで寄ったから」とか「お団子買ってきたから」というような…

【実話怪談】ポチョン

インドネシアから来た留学生のアニサさんに、「インドネシアのお化けの話、なにかありますか?」と訊いてみたところ、「ポチョンが有名ですね」と即答された。 寡聞にしてわたしはポチョンなるお化けがどんなものかを知らない。それで職権を濫用してしつこく…

【実話怪談】気をつけなされ

ある晩、津田さんが日課のジョギングをしていると、向こうから茂木さんが歩いてきたので緊張した。茂木さんはこのあたりでは有名な変なおじさんで、蓬髪に無精髭、真冬でも甚平に雪駄履きで、日がな一日、わけのわからない譫言を呟きながら近所を徘徊してい…

【実話怪談】厭な女

安曇さんは今年で四十二歳になる都内在住の女性である。四年前に結婚した彼女は、二年間の不妊治療を経て、待望の一女をもうけた。夫は家事にも子育てにも協力的な、おだやかな人である。娘も元気に育ち、義父母との関係も良好、職場復帰も実にスムーズだっ…

【実話怪談】ビルが建ってる

ベトナム人留学生のキエウさんから聞いた話。キエウさんは日本に来る一年ほど前から奇妙な夢を見るようになったのだという。 気づくと彼女は、見たこともないビル街を歩いている。それが夢だということは、キエウさんにはすぐわかる。なぜなら空に浮かぶ月が…

【実話怪談】おれ憑き

「きみの背中に『おれがついてる』んだ。気味がわるいからどうにかしてくれないか」唐突にそんなことを言われて、酒見さんは動揺した。相手は仕事上の同僚にすぎない葛西という男で、その時はたまたま会社の喫煙所で一緒になったのである。「言ってる意味が…