悲鳴窟

怪談その他

【実話怪談】靴

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琴美さんが当時交際していた彼氏のアパートにはじめて行った時のことだ。

アパートの階段を上がっていちばん手前の部屋の前を通りすぎる際、前を歩いていた彼氏が「うわッ!」と声をあげた。

見ればその部屋の表札部分にアニメのキャラクターが描かれた子供用のスニーカーの片方だけが、どうやら釘で打ちつけられている。明らかに不穏な儀式か呪術のようなものを髣髴させる行為である。

琴美さんもギョッとしたが、ものの本で、帰ってきてほしい人の靴を木に吊るすだか打ちつけるだかするまじないがあるという話を読んだ記憶があったから、ひょっとしてそういう意味合いがあるのではないか? と自説を述べたところ、それを聞いた彼氏は、

「でもこの部屋、じいさんの一人暮らしだよ」

と薄気味悪そうな表情を浮かべた。

その件についてはそれまでなのだが、数ヶ月後、向こうの浮気が原因で別れたその彼氏がストーカー化して琴美さんの靴を盗み、それを近所の神社の御神木に打ちつけていたことが判明し、身の危険を感じた彼女は地元を出て東京で生活をしはじめた。

数年後、仕事も恋愛も充実していた琴美さんはそんなこともすっかり忘れていたが、ある日、地元の友人とひさしぶりに会って酒を飲んでいた時に当時の彼氏の話になった。

「あの人、いまなんだかおかしなことになってるよ」

そう友人に聞かされ、その場のノリで彼のSNSを覗いてみたところ、

《月の上上に月月 猫目犬目》

《眼裏ふるえゆらゆら 盆の窪に黄昏》

というポエムだかなんだかよくわからない文言とともに、赤いピンヒールが駅のホームや橋のたもとに綺麗に揃え置かれている写真が複数枚投稿されていた。

友人によると彼がSNSにあげた写真には、明らかに心霊写真ではないかというものが数枚あるとのことで、なんでも青い顔をしたおじいさんと小学生くらいに見える男の子の顔が写り込んでいるとのことだったが、琴美さんは、それだけは死んでも見たくないと思っている。