悲鳴窟

怪談その他

実話怪談

【実話怪談】鶏鳴

柳楽さんが数年前まで住んでいたアパートでは、明け方、よく外で鶏の鳴く声が聞こえたそうだ。そこは駅から徒歩二十分ほどの場所にある木造物件で、周囲には畑も多かった。だから鶏を飼ってる人くらいいるだろう、と柳楽さんはそう考えていて、鳴き声がする…

【実話怪談】なでわき

二歳になる柚子ちゃんは今日も目についた扉をノックしてはこう訊ねる。 「トントントン、だれのおうち?」 保育園で教わった、いまお気に入りの遊びなのだ、と母の亜希さんは語る。古くから農業を営む亜希さんの生家に里帰りした時のこと。 玄関の引き戸の前…

【実話怪談】カレー屋

「インドカレー屋って初見で入っても、まあハズレないじゃないですか」 亜紀さんはその日、駅前で南アジア系と思しき外国人から新規オープンしたカレー屋の五〇円引きクーポン券をもらった。ちょうどランチタイムだったので、それならと彼女は駅からほど近い…

【実話怪談】殺したゴキブリ

中津さんが殺したゴキブリの腹から白い小人が出てきて「オ祓イシテモ意味ナイヨ」と言った。小人はすぐにカーペットの下に潜ってしまい見えなくなったが、それからというもの、夜になると部屋のどこかから「ヒヒヒ……」というか細い笑い声が聞こえるそうだ。…

白シャツ

大学院生の吉永さんが友人であるS宅を訪ねると、お揃いの白い襟なしシャツを着た四、五人の男女がアパートの前にたむろしていた。円陣を組んで顔を突き合わせ、何事かをひそひそと相談している様子である。わきを通りすぎる際にチラッと見れば、彼らの着て…

【実話怪談】関係

今年で不惑をむかえる芳樹さんは、郵便ポストの投函口から猫の頭部らしきものがにょっきりと「生えて」いるのを、これまでの人生で計五回見たことがある。アッ! と思った時にはもう消えている。錯視というには、あまりにはっきり見えるのだとか。 そんな話…

【実話怪談】山でサヨナラ

京香さんの趣味は登山である。以前の会社で仲の良かった同僚の影響だが、いまでは関東、東北地方の山はひととおり踏破したという。再就職先でも山仲間が見つかれば、と思っていたところ、直属の上司にあたる魚尾という男が、「山好きなんだって? 実はおれも…

【実話怪談】もずじまい

山形県出身の友人に聞いた話。彼の曽祖父の親次さんは納豆餅が大好物だった。丸餅に納豆とねぎ、大根おろしなどを乗せ醤油をかけたもので、山形では正月のポピュラーな餅料理だ。そして年季の入った餅好きは、この納豆餅を食べるというより、一口でつるッと…

【実話怪談】おじさん

台湾人留学生の永波さんがアルバイト先の個人経営の居酒屋で立ったままうとうとしていると、入口の自動扉が開く気配がした。「いらっしゃいませー」咄嗟にそう言いながら腕時計を見れば、深夜三時をまわったところだった。二十四時間営業の店とはいえ、こん…

【実話怪談】おばさん

ヨシオさんが小学四、五年生の頃、近所の駄菓子屋の前で友人のヌマタくんと駄弁っていると、知らないおばさんに声をかけられた。ヌマタくんによく似た、垂れ目のおばさんだった。おおかた親戚だろうと思った。けれどヌマタくんはおばさんとあまり言葉を交わ…

【実話怪談】結婚してます

奈美さんが某マッチングアプリで知り合った男と三回目の食事に行った際、不意に店の電気が消えたと思ったら、奥のほうから結構な数の蝋燭が立てられたホールケーキを持ったギャルソンが近づいてきたので厭な予感がした。 案の定、奈美さんの予感は的中した。…

【実話怪談】置き引き

笠井さんははじめての海外旅行で置き引き被害にあった。レストランを出て友人と談笑しつつ百メートルほど歩いたところで、ポケットにスマホがないことに気づいたのである。さてはテーブルの上に置きッぱなしかと慌てて駆け戻るも、時すでにおそかった。最前…

【実話怪談】忠告──部屋に蛇が

晃司さんが社会人一年目の頃の話。仕事を終えた彼が帰宅すると、玄関扉に一枚の紙が貼られていた。そこには達筆な筆字で一言、 《部屋に蛇がいます》 と書いてあったそうだ。えッ蛇がなんで? と晃司さんはギョッとしたけれど、彼の住まいは東京の都心部であ…

【実話怪談】忠告──その子供

前浦さんが新宿の伊勢丹前で信号待ちをしていたら背後から肩を叩かれた。振り向くとそこには東南アジア系とおぼしき見知らぬ女が立っていた。女は彼のすぐ横のなにもない空間を指差しながら、「あなた、その子供どうしたか? よくないね。捨てなさい」それだ…

【実話怪談】忠告──心霊写真

綾乃さんが以前交際していた男と江ノ島に遊びに行った際、そこで撮った写真のすべてに同じ女が写っていた。岩谷洞窟でのツーショットに至っては、背後から男に覆いかぶさろうとしている女のすがたがきわめて鮮明に見てとれたという。女の左目はマジックで塗…

【実話怪談】こっくりさんの歌

三芳さんが中学生の頃、クラスの隠キャグループ四人組で放課後にこっくりさんをやろうという話になった。三好さんも四人のうちのひとりである。が、いざ放課後になってみると、いったいだれが漏らしたのか「隠キャたちがこっくりさんをするらしい」という情…

【実話怪談】カメ田カメ吉

現在、銀座のクラブで働く花音さんは小学校低学年の頃、両親と車ですこし離れたところにある自然公園に遊びに行った。そしてそこにある池で、一匹のミドリガメを捕まえたのだという。 花音さんはそのカメをカメ吉と名づけた。飼いはじめのうちこそ甲斐甲斐し…

【実話怪談】ひとだまワープ

タクシー運転手の戸塚さんが長距離の客を乗せた帰りに流山あたりの田圃道を走らせていると、不意に目の前をひとだまが横切ったのだという。 「街灯もないような道でしたから、そりゃもうはっきり見えましたよ。漫画なんかだと丸くて尾を引いてるようなかたち…

【実話怪談】くちうつし

S区にあるラブホテルで夢子さんは一度、とても厭な体験をしたことがある。 バーで知り合ったばかりの男にもう一軒行こうと誘われた時点で、そういうことになるだろう、とは思っていた。が、先導する男は近場のホテルを通りすぎ、裏道をずんずん進んでいく。…

【実話怪談】出れねえ

彰人さんのおじいさんはもともと変わり者だったが、ストッパーの役割を担っていた妻を癌で亡くして以来、その奇行に拍車がかかった。具体的には、暇と金にまかせて家の増改築を繰り返した。その結果、彰人さんの実家は、どこにも通じていない扉、一階から直…

【実話怪談】知らぬが仏

タクシーにまつわる怪談は数多いけれど、いざ運転手さんに「なにか怖い話あります?」と訊くと、多くの場合、厄介な客を乗せたとか、そんなような話になる。そもそもわたしがタクシーに乗るのは、よほどの泥酔時乃至疲労困憊時にかぎるので、そんな状態でわ…

【実話怪談】恥

春太さんは物心つかない時分に不幸な事故でお母さんを亡くしたが、それでもお母さんのゆうれいがちょくちょくやって来ていたので、別段、かなしいとかさびしいという感情を抱いたことはなかったという。お母さんのゆうれいがあらわれるのは決まって入眠の直…

【実話怪談】お地蔵さまの写真

十年前、恋人からメールで唐突に別れを告げられた知念さんがあわてて彼女のマンションに駆けつけると、部屋はすでにもぬけの殻だった。 しかし合鍵で入った部屋の壁という壁には、おそらくは同一のお地蔵さまをさまざまなアングルで撮ったとおぼしき写真が無…

【実話怪談】三角公園

おかしな公園がある。道と道がV字に交差する地点に作られた、ごく小さな公園で、その形状から地元では「三角公園」と呼ばれている。正式な名前もあるが、無論、ここでは伏す。備えられた遊具は、大人の背丈ほどの滑り台とブランコ、そして二人掛けのベンチが…

【実話怪談】トルコの飴

「贋物二題」のうち「裸踊り」の話を提供してくださった美和さんがトルコ人の友人の家に遊びに行った際、その彼が突如、「シャブでもやるかあ」と言い出したのでギョッとした。 鼻歌まじりに友人が取り出したのは、クッキーかなにかの缶で、中には薄茶に透き…

【実話怪談】贋物二題

ドッペルゲンガー、古くは離魂病、影のわずらいとも言う。要するにもうひとりのじぶんがあらわれる現象であるが、このたぐいの話は古今東西枚挙に暇がない。ここではそのうち、ごく最近聞いて印象に残った話をふたつ紹介する。 裸踊り 美和さんが大学生の頃…

【実話怪談】カール

自称中堅どころのライターだという松縄さんが最近越した家の近所にはわりと古くからやっているおもむきの煎餅屋があって、そこのうちではカールという名のビーグル犬を飼っている。松縄さんは仕事柄、どうしても家に籠りがちなので、早朝に一度、夕方に一度…

【実話怪談】なめとも

古い友人と言えないこともない秋谷が真夜中に酩酊し道端に倒れたところをトラックに轢かれて死んだ日、東海林さんは奇妙な体験をしたという。 その日、東海林さんはどうにも寝付けず、居間でウィスキーのグラスを重ねていた。時計を見ると、午前二時をまわっ…

【実話怪談】ポッポの窓

奈緒さんの家では、一人息子の仁くんが意味のある言葉を発するようになった。「まだまだ単語だけですけどね。『パパ』『ママ』『ワンワン』とか、そういうの」最近では「ポッポ」を覚えた。公園で鳩を見かけるたびに「ポッポ、ポッポ」とうれしそうに繰り返…

【実話怪談】片腕

佑美さんは学生の頃、ホテルのラウンジで給仕のアルバイトをしていたが、そこで知り合った裕福そうなおじさんに何度か食事に誘われたことがあるそうだ。飲食関係の会社で役員をしているとかいう品のいい男性だったので、食事くらい別にいいかとも思ったが、…