悲鳴窟

怪談その他

2022-01-01から1年間の記事一覧

白シャツ

大学院生の吉永さんが友人であるS宅を訪ねると、お揃いの白い襟なしシャツを着た四、五人の男女がアパートの前にたむろしていた。円陣を組んで顔を突き合わせ、何事かをひそひそと相談している様子である。わきを通りすぎる際にチラッと見れば、彼らの着て…

【実話怪談】関係

今年で不惑をむかえる芳樹さんは、郵便ポストの投函口から猫の頭部らしきものがにょっきりと「生えて」いるのを、これまでの人生で計五回見たことがある。アッ! と思った時にはもう消えている。錯視というには、あまりにはっきり見えるのだとか。 そんな話…

【実話怪談】山でサヨナラ

京香さんの趣味は登山である。以前の会社で仲の良かった同僚の影響だが、いまでは関東、東北地方の山はひととおり踏破したという。再就職先でも山仲間が見つかれば、と思っていたところ、直属の上司にあたる魚尾という男が、「山好きなんだって? 実はおれも…

わからなさと踊れ 高田公太「あるファンからのメール──愚狂人レポート」感想

気狂いとはおのれのことしか考えぬ者の謂である。 (エリアス・カネッティ「眩暈」池内紀訳) ああ、バートルビー! ああ、人間!(ハーマン・メルヴィル「書写人バートルビー」柴田元幸訳) 高田公太さんのnote連載小説「あるファンからのメール──愚狂人レ…

【実話怪談】オムライス

ひさびさの外食でオムライスを食べた岩村くんが食後の珈琲を飲みながら某SNSを開くと、つい数分前に彼をフォローしている人がいた。なんだか政治的に混み入った話をぽつぽつと呟いている感じのアカウントで、いったいどうして岩村くんをフォローしたのか…

【実話怪談】もずじまい

山形県出身の友人に聞いた話。彼の曽祖父の親次さんは納豆餅が大好物だった。丸餅に納豆とねぎ、大根おろしなどを乗せ醤油をかけたもので、山形では正月のポピュラーな餅料理だ。そして年季の入った餅好きは、この納豆餅を食べるというより、一口でつるッと…

【実話怪談】おじさん

台湾人留学生の永波さんがアルバイト先の個人経営の居酒屋で立ったままうとうとしていると、入口の自動扉が開く気配がした。「いらっしゃいませー」咄嗟にそう言いながら腕時計を見れば、深夜三時をまわったところだった。二十四時間営業の店とはいえ、こん…

【実話怪談】おばさん

ヨシオさんが小学四、五年生の頃、近所の駄菓子屋の前で友人のヌマタくんと駄弁っていると、知らないおばさんに声をかけられた。ヌマタくんによく似た、垂れ目のおばさんだった。おおかた親戚だろうと思った。けれどヌマタくんはおばさんとあまり言葉を交わ…

【実話怪談】結婚してます

奈美さんが某マッチングアプリで知り合った男と三回目の食事に行った際、不意に店の電気が消えたと思ったら、奥のほうから結構な数の蝋燭が立てられたホールケーキを持ったギャルソンが近づいてきたので厭な予感がした。 案の定、奈美さんの予感は的中した。…

【実話怪談】置き引き

笠井さんははじめての海外旅行で置き引き被害にあった。レストランを出て友人と談笑しつつ百メートルほど歩いたところで、ポケットにスマホがないことに気づいたのである。さてはテーブルの上に置きッぱなしかと慌てて駆け戻るも、時すでにおそかった。最前…

【実話怪談】忠告──部屋に蛇が

晃司さんが社会人一年目の頃の話。仕事を終えた彼が帰宅すると、玄関扉に一枚の紙が貼られていた。そこには達筆な筆字で一言、 《部屋に蛇がいます》 と書いてあったそうだ。えッ蛇がなんで? と晃司さんはギョッとしたけれど、彼の住まいは東京の都心部であ…

【実話怪談】忠告──その子供

前浦さんが新宿の伊勢丹前で信号待ちをしていたら背後から肩を叩かれた。振り向くとそこには東南アジア系とおぼしき見知らぬ女が立っていた。女は彼のすぐ横のなにもない空間を指差しながら、「あなた、その子供どうしたか? よくないね。捨てなさい」それだ…

【実話怪談】忠告──心霊写真

綾乃さんが以前交際していた男と江ノ島に遊びに行った際、そこで撮った写真のすべてに同じ女が写っていた。岩谷洞窟でのツーショットに至っては、背後から男に覆いかぶさろうとしている女のすがたがきわめて鮮明に見てとれたという。女の左目はマジックで塗…

【実話怪談】こっくりさんの歌

三芳さんが中学生の頃、クラスの隠キャグループ四人組で放課後にこっくりさんをやろうという話になった。三好さんも四人のうちのひとりである。が、いざ放課後になってみると、いったいだれが漏らしたのか「隠キャたちがこっくりさんをするらしい」という情…

【実話怪談】カメ田カメ吉

現在、銀座のクラブで働く花音さんは小学校低学年の頃、両親と車ですこし離れたところにある自然公園に遊びに行った。そしてそこにある池で、一匹のミドリガメを捕まえたのだという。 花音さんはそのカメをカメ吉と名づけた。飼いはじめのうちこそ甲斐甲斐し…

【実話怪談】ひとだまワープ

タクシー運転手の戸塚さんが長距離の客を乗せた帰りに流山あたりの田圃道を走らせていると、不意に目の前をひとだまが横切ったのだという。 「街灯もないような道でしたから、そりゃもうはっきり見えましたよ。漫画なんかだと丸くて尾を引いてるようなかたち…

【実話怪談】くちうつし

S区にあるラブホテルで夢子さんは一度、とても厭な体験をしたことがある。 バーで知り合ったばかりの男にもう一軒行こうと誘われた時点で、そういうことになるだろう、とは思っていた。が、先導する男は近場のホテルを通りすぎ、裏道をずんずん進んでいく。…

【実話怪談】洗濯物

二年ほど前に天野が住んでいたマンションは駅から続くだらだら坂の頂上にあった。 「坂の左右には古くからある風情の家が並んでいるんだけど、その中に一軒、人が住んでるのかいないのかよくわからない家があったんだ」 見るからにひどいぼろ家というわけで…

【実話怪談】はじめての初詣(たぶん最後)

むかしの教え子で、現在は都内の専門学校に勤めている張さんに、「なにか怖い話、不思議な話ってある?」と訊いたところ、「日本の初詣は怖いですね」と返ってきた。「それはつまり人が多いから?」そうじゃなくて、と彼女は首を横に振り、「わたし、××神社…