悲鳴窟

怪談その他

【実話怪談】墓地横のアパート

三上くんの昔の友人に多田という趣味のわるい男がいて、そいつは道端の地蔵を蹴倒したりお稲荷さんに小便をひっかけたり、幽霊が出るとうわさのトンネルにわざわざ出かけて大便を垂れてきたりするのだそうで、その度を越した狂態に多くの友人はドン引きして離れていったが、三上くんはというと、次はどんな頭のおかしいことをしでかすんだろう、という好奇心から彼との交際を続けていた。

ある日、人づてに多田が「物凄くヤバい場所」に引っ越したとの情報を得た三上くんが電話をかけてみると、なんでもそこは墓地横に建つ築何十年だかのアパートで、飲み屋で知り合った人から、霊現象が多発する、と聞いて即入居を決めたのだが、実際に住んでみるとこれが拍子抜けなシロモノで、霊現象といっても毎晩部屋に人魂が飛ぶくらいだよ、と多田は不敵に笑った。

毎晩人魂が出るというのは、ちょっとすごいじゃないか、と興奮した三上くんはすぐに多田と会う約束をとりつけて、翌日の夕方頃に聞かされていた住所まで行ってみたところ、いくら探してもそんなアパートも墓地もどこにもなくて、なんだか狐につままれたような心細い気持ちになってきた彼が確認のためケータイを取り出すと、ちょうど多田からのメールを受信していた。

メール本文には一文字もなかったが、添付されていた写真には、荒廃した部屋の中央にうなだれた様子で立ち尽くす多田らしき男の後ろ姿が写っており、そのまわりをピンポン玉くらいの大きさをした、赤、青、黄、オレンジの光り物が無数に飛び交い尾を引いていたので、三上くんはゾッとしてその写真をすぐに削除し、多田からの電話もメールも拒否設定にしてしまった。

多田とはそれから一度も会えていないし、だれに聞いてもなんだかはっきりしないうちに当時の仲間とも疎遠になってしまったため、三上くんのなかでは、多田はまだあの存在しない墓地横のアパートに住んでいることになっている。