悲鳴窟

怪談その他

加藤一編著『鬼怪談 現代実話異録』

f:id:Mishiba_Y:20210624194016j:image

(2021年4月5日 初版第1刷発行)

目次

3 巻頭言 鬼(加藤一)
6 本望(つくね乱蔵)
11 百鬼夜行を描く(音隣宗二)
14 海を渡った般若面(松本エムザ)
20 有能な鬼面(つくね乱蔵)
25 鬼石(soo)
28 キセキ(服部義史)
45 踊る赤鬼(つくね乱蔵)
51 受け継ぐ(ねこや堂)
61 それは本当に鬼なのか?(内藤駆)
71 拒食(橘百花)
76 栞(加藤一)
81 鬼のごとき(橘百花)
87 夜の県道(戸神重明)
94 色鬼の思い出(緒音百)
97 かくれんぼ(神沼三平太)
102 百目鬼伝説の残る地で(松本エムザ)
108 彷徨うイクラ(橘百花)
111 魚の餌(橘百花)
116 雪の日(芳春)
119 都内へ(神沼三平太)
121 鬼の首(戸神重明)
123 鬼女(戸神重明)
130 おんなおに(神沼三平太)
146 条件の家(久田樹生)
190 おっかな橋(渡辺正和
199 笑い家族(成瀬川鳴神)
202 鬼が嗤う(影絵草子)
205 鬼の子(神沼三平太)
214 恩返し(神沼三平太)
222 著者プロフィール

ベテランから若手まで、総勢17名による「鬼の話」アンソロジー

同テーマの話が連続する構成になっており、おそらくはざっくりと以下の6つのセクションに区切られている。すなわち、

1 鬼にまつわる物

2 鬼のようなもの

3 鬼ごっこ

4 現代に生きる鬼

5 鬼女

6 家に伝わる鬼

収録作については玉石混交だが、1~3のパートに惹かれる話が多かった。

鬼という存在は、イメージだけがあまりに一人歩きしている。つまりはキャラクター化しているのわけで、実話怪談としては取り扱いに困る題材なのかもしれない。むしろ現代人が、どのような怪異を鬼として認識しているのか、という表象的側面に興味が湧く。

とはいえいくつかの話では、そういう切り口もあるのか、と感心させられた。

オススメ怪談3選

①「踊る赤鬼」(つくね乱蔵)
ビジュアル面でのインパクトが最も強い怪談だが、心底ぞッとさせられるのはクライマックスの、障子に穴をあけて……というくだり。巻頭を飾る同著者の「本望」も実に厭な話。手塚治虫の『どろろ』にこんな妖怪が出てきたような。

②「色鬼の思い出」(緒音百)
実話怪談を読み聞きしていると、話の中で、同窓会が果たす役割が大きいことに気付かさせる。当時の記憶が他者によって肯定されるにしろ否定されるにしろ、そこでひとつのツイストが入るからだろう。在りし日のちょっとした不思議な思い出が、一気に無気味なものへと変貌する瞬間がすばらしい。

③「おんなおに」(神沼三平太)
安珍清姫の流れを汲む古典的な鬼女物かと思いきや、中盤で鬼に向けるまなざしが反転する。そこで終われば理に落ちる怪談にとどまるが、最後の最後でまたしてもわけのわからない事態が出来し、不安は残される。「鬼(おに)」は「隠(おん)」に通じるとされるが、真の鬼は果たしてどこに隠れ潜んでいるのか。