悲鳴窟

怪談その他

神沼三平太『実話怪談 怖気草』

f:id:Mishiba_Y:20210615212617j:image

(2018年3月7日 初版第1刷発行)

目次

3 まえがき
6 水没
8 コレクター
16 おつげ
21 利き腕
29 掛け軸
37 井戸
46 鳥居
53 双白
60 芒原
66 吊り部屋
77 ダイビングスポット
85 蛇塚
95 十二単
105 道
114 七代
118 ははのひ
126 あなたのために
129 オレオレ詐欺
142 巾着袋
155 八本
163 聖地
171 祟り
183 Kヶ岳の写真
200 螺旋物体
212 出られない
220 あとがき

談というジャンルは、そもそもの前提として人が死んでいる、あるいは結果的に人が死ぬ話が多い。結局のところ、多かれ少なかれ、ほとんどすべての怪談に人の生死がかかわっている以上、そこにはどうしても厭な部分、目を背けたくなる要素が含まれているのである。

本書『怖気草』からはじまる神沼三平太の「××草」シリーズは、そうした怪談の厭な部分に特化した話ばかりを収録している。

神沼の怪談において、怪異の当事者たちは、皆ほぼ例外なく死ぬか消えるかする。運よく死んだり消えたりしなかった人たちも、大切なものを失うとか、一家離散の憂き目にあうとか、要するに人生の終わりに等しい絶望を味わうことになる。

事程左様、なにしろ厭な話ばかりだから、その性質上、祟りや呪いに関する話が多くなる。なにか祠を壊したとか、神社で粗相をしたとかその類の狼藉を働いた人間がボコボコにされる。

なんというか『ゲゲゲの鬼太郎』の導入みたいで、いささか教訓的に感じられなくもないが、収録作の質はきわめて高い。文章も端正で、あとがきを読むとわかるが、同モチーフの作品を並べることでリフレインを意識したり、読み進めるにつれて重い読み応えの話が増えていったりと、作品の順序にも配慮が行き届いている。

とにかく凹む怪談を読みたい向きには必読である一方、初心者には全くオススメできないハードな一冊といえる。

オススメ怪談3選

①「コレクター」
目にみえる怪異が起こるわけではないが、肉親が壊れていく=人間をやめていくさまにひたすらフィーチャーした、これは紛うかたなき「人でなし」(誉め言葉)の怪談である。恐怖というよりも、むしろ生理的な嫌悪感を催させるガジェットがこれでもかと詰め込まれた最低(誉め言葉)の話。

②「オレオレ詐欺
弱者が死んで仇に祟る。現代的な小道具が登場するのとは裏腹に、きわめて古典的な構造を持った怪談だろう。ロクでもない奴らが恐怖に慄きながらバンバン死んでいく展開には『スカッとジャパン』的な爽快感があるが、現実にはもっとずっと悪いことをして私腹を肥やし、あまつさえ幸福に天寿を全うしていく連中はたくさんいる。そういう人たちが、どんどんひどい目にあったらいいのにと思いました。

③「Kヶ岳の写真」
いわゆる「自己責任系」怪談は正直あまり好みではないのだけれど、これはちょっと別格。ぜんたいにレベルの高い怪談が収録された本書中、頭ひとつ抜けた傑作。山岳怪談の重鎮・安曇潤平の作品(ネタバレになるのでタイトルは伏せる)にもよく似た話があり、もしかするとネタ元がかぶっていたりするのかもしれないが、本作の場合、写真というメディアの存在が怪異の射程をより押し広げている。登山が趣味の同居人にこの話を聞かせたところ、「なんでそんな厭な話をするの……」と本気で凹んでいました。山好きの人にドシドシ読ませよう。