悲鳴窟

怪談その他

正木信太郎、しのはら史絵、夜馬祐、若本衣織『趣魅怪談~特殊趣味人が遭遇した21の怪異』(彩図社)

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(2021年7月21日 第1刷)

目次

2 はじめに

9  第一章 奇の怪異

10  【トレイルランニングの怪異】パアァァン!(しのはら史絵)
16  【鉱物コレクターの怪異】石拾い(若本衣織)
20  【ウミウシ撮影の怪異】奇妙な海の宝石(正木信太郎)
30  【球体関節人形作りの怪異】育児放棄(しのはら史絵)
41  【時計標本制作の怪異】遺品の行方(正木信太郎)
55  【泣き声集めの怪異】友の変貌(夜馬祐)

59 第二章 妖の怪異

70  【架空鉄の怪異】理想郷に捧ぐ(正木信太郎)
83  【スワッピング愛好家の怪異】見学者(若本衣織)
89  【空き缶コレクターの怪異】泣きぼくろ(しのはら史絵)
97  【標識撮影マニアの怪異】その他の危険(夜馬祐)
111【廃墟探訪の怪異】湧き続ける場所(若本衣織)

127 第三章 怨の怪異

128【ソロキャンプの怪異】焚火(若本衣織)
136【懸賞マニアの怪異】当選通知(正木信太郎)
149【葬式巡りの怪異】ぎりぃ(しのはら史絵)
155【抜け殻コレクターの怪異】究極のコレクション(夜馬祐)
171【切り絵の怪異】ひとり反省会(若本衣織)

181 第四章 縛の怪異

182【厄集めの怪異】厄払いサークル(夜馬祐)
198【事故物件内見の怪異】予測不可能(しのはら史絵)
209【旧車愛好家の怪異】憧れのドライブ(若本衣織)
225【マンホーラーの怪異】それは忘れた頃にやってくる(しのはら史絵)
240【怪談蒐集家の怪異】危険な趣味(正木信太郎)

251 おわりに

変わった趣味にまつわる怪談集。

筆者は無趣味なので、ウミウシ撮影とか架空鉄とか事故物件内見とかいう頭のおかしい趣味を持つ人たちが同じ世界に存在していることだけで、無性にワクワクしてしまう。

とはいえ、たとえばスワッピングや懸賞マニアにまつわる怪談と聞くと、それは出オチなのでは? という危惧をおぼえもする。珍しい食材はどう料理しても美味い、というわけでは決してないからだ。

実のところ筆者は、大好きな夜馬祐のパートを読めばいいかな、くらいの気持ちで本書を購入したのだが、読み進めるうちに、だんだんと姿勢が正されてくるのを感じた。どの怪談も総じて高レベルなのだ。

特に今回はじめて読んだ若本衣織の作は、どれもすごくよかった。四人の執筆者中、実話怪談らしい因果の不可解さを最も繊細にすくいあげているように思う。是非とも単著で読みたい書き手である。

また執筆陣の傾向として、厭怪談が多めなのも個人的にはうれしいところ。趣向のみならず内容面でも大満足の怪談本だった。

四人の怪談からそれぞれ一話ずつオススメを挙げる。

オススメ怪談4選

① 正木信太郎「理想郷に捧ぐ」
本書中、最も綺想寄りの怪談を披露しているのがこの人のパート。架空鉄という鉄オタのジャンルをはじめて知ったが、そういえば高校生の頃に、存在しない鉄道路線の時刻表をノートにひたすら書き綴っている同級生がいた。ちょっと小洒落たコントのような逸品。

② しのはら史絵「予測不可能」
ここ数年、もうずっと流行りの事故物件怪談のなかでもトップクラスに凶悪な話ではなかろうか。怪異のスイッチが入ってからの展開は、タイトルどおり、まったく予測できない恐怖に満ちており、読み進めるにつれ、不安だけが増大していく。後味のわるさも一級品。本書のベスト怪談かも。

③ 夜馬祐「友の変貌」
ガジェットの気持ちわるさもさることながら、緻密に構築された世界観が足元からゆらぎはじめる瞬間にこそ、氏の怪談特有の厭さがある。まさしくこれは蝸牛管をぶっ壊される怖さ。実話怪談界における「信頼できない語り手」の第一人者たる夜馬祐の面目躍如といえよう。

④ 若本衣織「ひとり反省会」
「石拾い」「湧き続ける場所」「焚火」と、どれも絶品というほかない収録作のうち、特にどす黒くもかなしい恐怖のありかたを描いたこの怪談を選んだ。ギルマン「黄色い壁紙」あたりと並べて読みたい傑作だと思う。読み終えたあとの気持ちの置きどころがどこにもなくて辛い。