悲鳴窟

怪談その他

朱雀門出『第六脳釘怪談』

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(2021年7月6日 初版第1刷発行)

目次

9  一   十五の夜
14   二   イタイ元カノ
18   三   自分の部屋にいる女
20   四   伊吹山でUFOを見た話
23   五   捕まえたヤモリ
27   六   宗教歌が聞こえる
29   七   卒業式で流れた曲
33   八   象が逃げました
39   九   ヅラの下
42   十   前世が見えるの
44 十一  透き通った肉まん
47 十二  アリさんのおうちに行った話
50 十三  鳥さん、怖い
54 十四  知らないものが冷蔵庫に
58 十五  こぶん
67 十六  夜遭肥双
71 十七  ゴミ箱の死体
74 十八  白い鱗
78 十九  美女の怪
87 二十  美人注目ホルモン
91 二十一 姉さんに呪われてるよ
95 二十二 イコール卒塔婆
98 二十三 託宣(人間態)
102  二十四 仏の字
104  二十五 新・真実の世界
119  二十六 ネズミが出て嫌になる
123  二十七 カグノカゲ
126  二十八 何も持たずに出たんですよ
130  二十九 ヒトの顔したトースター
133  三十  うんこパン
137  三十一 首無し地蔵のこと
140  三十二 地蔵剥き
143  三十三 青トカゲ
145  三十四 水馬
148  三十五 何この模様? と思った話
152  三十六 ペットは笑うよね
155  三十七 墓地の猫
160  三十八 一人と三匹
164  三十九 オーブもナメてはいけないこと
169  四十  大きな猫
171  四十一 ギガンドコップ
175  四十二 自動車トーマス
178  四十三 ウォーキングベッド、中身はデッド
180  四十四 腕ごろごろ
183  四十五 血の涙
186  四十六 噓つき兄さん
190  四十七 ビニール紐の話がとても怖いという話
193  四十八 山の墓地で歌うもの
196  四十九 変だよね
199  五十  黒い命
204  五十一 塩風呂
208  五十二 先生が首を吊っています
211  五十三 どこでもドア
213  五十四 ×

なんとなく関係があるような、全然無関係のような、なんともいえない話である。(十四 知らないものが冷蔵庫に)

待望の「脳釘怪談」シリーズ最新巻。

以前、どこかのだれかが、たしか内田百閒の文章について「この人の文章は、どんなに短いものであってもぜんぶ読みたい」と言っていたが、実話怪談の書き手のなかにもそういう「この人の文章は、どんなに短いものであってもぜんぶ読みたい」と思わせる人がいる。

筆者にとってそのツートップと言うべきなのが我妻俊樹と朱雀門出で、このふたりの怪談に触れるたびに、言い知れぬ酩酊感に見舞われる。別に非合法な薬や茸を試したことはないが、それに近い感覚なのではないか。

朱雀門出が好んで語る怪談においては、個々の怪異の不可解さもさることながら、それぞれの事象をむすぶ線分の希薄さ、ちぐはぐさが際立っており、それは先に挙げた内田百閒の幻想小説や中国の志怪小説にもよく似た味わいで、後出しのロジックが通用しない不気味さである。

目次を一読すればわかるが、タイトルのセンスも抜群。これはもうすぐにでも読みたいと思われる作品が並んでいるほか、同モチーフの話をゆるやかに接続していく構成もおもしろい。

文章にも独特のユーモアと浮遊感があり、繰り返し読みたくなる魅力にあふれた一冊だ。怖い、というよりは、とにかく奇妙な話を読みたい人は是非手に取ってほしい。実話怪談に対する印象が変わると思う。

オススメ怪談3選

①「十六 夜遭肥双」
タイトルからして志怪小説っぽい。話の中身も実にそれっぽい。どこか狐狸妖怪に化かされた話のようでもあるが、双子の容貌が『鏡の国のアリス』に出てくるあのキャラクターを髣髴させる。「五 捕まえたヤモリ」と並ぶ、本書の可愛い枠。

②「二十五 新・真実の世界」
「子供の時に見た変な物の話」シリーズ。幼少期の記憶というきわめて曖昧なものに立脚するこうした話群は、厳密には怪異の範疇に入らないのかもしれないが、個人的にはこういう話こそ、だれもがひとつは持っている怪談なのだと思っている。傑作揃いの本書のなかでも、いちばん心躍る話だった。

③「四十七 ビニール紐の話がとても怖いという話」
幽霊が幽霊にビビる話は聞いたことがあるけれど、それともまたちょっと毛色の異なる話。友人の「そんなのばかり観ていたら寄ってくるで」という台詞がちゃんと伏線になってもいて、その繊細さはいったい……と笑ってしまった。